インプラントとは
インプラント埋入治療をお考えになる前に、まず「自分の歯を残せる可能性は本当にないのか」ということをじっくりと検討してみてください。「自分の歯を守る」ということを最優先すべきだからです。
それでも虫歯や歯周病、外傷などによって不幸にもご自身の歯を失ってしまった方や、先天的に永久歯が生えてこない場合に、歯のない部分を人工物で補う治療が必要となります。
従来、その治療法として取り外せる義歯や、セメントで固定するブリッジが一般的に臨床応用されてきました。しかし、そのような治療を行なっても、機能的・審美的また精神的な満足を得られない患者さまがいらっしゃることも事実です。
そこで、それらに代わる治療法としてインプラント体(人工歯根)を顎骨に埋め込むインプラント埋入が選択肢に加わったのです。
インプラント埋入治療は、歯科医師側から積極的に無条件でどなたにでもおすすめする治療法ではありませんが、知識や技術をもつ歯科医師により適切に応用され、患者さまのご協力が得られるならば、長期間にわたりご満足いただける結果になるものと確信しています。
インプラント埋入治療に適した方
- 歯があるときのように食事がしたい
- 元の自然な見た目に戻したい
- 入れ歯を受け入れられない
- 入れ歯の手入れが面倒
- ブリッジをすすめられた
- 残りの歯を大切にしたい
インプラント埋入治療のメリット・デメリット
インプラント埋入治療のメリット
1.天然歯に近い噛む力を取り戻せる
ブリッジや入れ歯に比べ、強く噛めます。インプラントの場合は、顎骨に埋め込んだインプラント体が骨と生着してしっかりとした土台になるため、自然な感覚で天然歯の80%程度の力で噛めます。しっかり噛んで食事をすることは、若さと健康の維持にもつながります。
2.見た目の不自然さがほとんどない
入れ歯だと留め具の金属が目立ってしまいます。またブリッジは、2~3本の人工歯が連結しているので、装着から時間がたつと不自然に見えてきてしまうことがあります。インプラントでは、各歯それぞれに治療を行なうので、ほとんど天然歯に近い見た目となります。上部構造は患者さまの元々の歯に合わせて作ります。
3.耐久性に優れている
人工歯はすべてセラミック(陶材)なので、虫歯になりません。定期検診とご家庭でのケアを行なっていただければ、ほぼ半永久的にお使いいただけます。年齢や患者さまのケアの度合いにもよりますが、90%以上の方が10年以上維持されています。
4.周囲の歯や歯肉を傷めない
天然歯と同じように、根から顎骨に支えられるインプラントは、ブリッジと比べて周囲の健康な歯を削ることがなく、周囲の歯への負担も抑えられます。
インプラント埋入治療のデメリット
1.外科手術の負担がある
顎骨にインプラントを埋め込むための外科手術が必要となるので、患者さまの肉体的・精神的負担が大きくなります。
2.治療期間・費用がかかる
インプラントと顎骨とが結合するまで2~6ヵ月かかるため、治療期間が長くなります。また、自費診療となるので1本あたりの治療費が30~45万円ほどと高額になります。
3.顎骨の量が必要
顎骨にインプラントを埋め込めるだけの高さと厚みが必要です。骨が足りない場合は、骨造成(骨の足りない部分に骨を増やす手術)や骨移植(骨の足りない部分に自分の骨や人工骨を移植する手術)を行なう必要があります。
4.ケア・メンテナンスが必要
自分の歯のとき以上に、ケアやメンテナンスが重要になります。歯磨きなどの日常的なケアをしっかり行ない、歯科医院で継続的に定期メンテナンスを受ける必要があります。
ほかの治療との比較
インプラント | ブリッジ | 入れ歯 | |
---|---|---|---|
良い点 | ・天然歯のように顎骨に固定するので、違和感なく噛める ・噛む力が天然歯の約80%まで回復するので、固いものを噛めるようになる ・隣の歯を削る必要がない ・見た目が天然歯に近い ・良く噛めることは全身的な健康にも良い影響を与える |
・固定式なので、装着しても違和感があまりない ・人工歯の材料により、天然歯と比べて遜色ない審美的な修復が可能 |
・ブリッジを適用できないような大きな欠損に有効 ・ブリッジのように健全な歯を削らずに補える |
留意点 | インプラントを顎骨に埋め込む手術が必要 ・全身疾患がある場合には治療ができないことがある ・インプラントを維持するために、十分な口腔衛生の管理と定期検診を受診する必要がある |
・ブリッジの支持・固定のため、たとえ健康でも両隣の歯を削る必要がある ・支えになる歯には大きな力がかかり、将来的にその歯を失うことがある ・ポンティック(ブリッジの橋の部分)とその下部の歯肉との間に食べかすがつまり、不衛生になりやすい ・空気がもれて発音が困難になることがある |
・ばねを掛ける隣の歯への負担が大きい ・噛む力が健康な状態に比べて30~40%くらいになる ・取り外して手入れする必要がある ・ガタつきやすい ・口の中に違和感を感じやすい ・食べ物が挟まって不衛生になりやすい |
インプラント埋入治療の流れ
インプラント埋入治療における手術には、「1回法」と「2回法」という2つの方法があります。
治療に際して、インプラントを埋め込むために歯肉を切開する手術が必要となりますが、それを1回だけ行なうのが1回法、2回行なうのが2回法です。
それぞれに特徴があり、患者さまの症状などによってどちらかを選択します。
1回法の治療の流れ
Step1.歯肉切開
歯肉を切開し、顎骨にこれから埋め込むインプラントに合う長さ・太さの穴をあけます。
Step2.インプラント埋入
インプラントとアバットメント(インプラントと人工歯との連結部分)が一体化した1ピース型のインプラントを使う場合、インプラントを埋め込み、その頭部を歯肉の上に出しておきます。
インプラントとアバットメントが分かれている2ピース型のインプラントを使う場合、インプラントを埋め込み、その頭部を骨の外に出します。そこにアバットメントを取り付け、歯肉の上に出しておきます。
Step3.治癒期間
インプラントと顎の骨が結合するまで治癒期間を設けます。
治療部位や骨の状態によって異なりますが、2~6ヵ月で結合します。
Step4.人工歯装着
型をとって人工歯を作り、装着感や噛み合わせなどを確認しながら取り付けます。
2回法の治療の流れ
Step1.歯肉切開
歯肉を切開し、顎骨にこれから埋め込むインプラントに合う長さ・太さの穴をあけます。
Step2.インプラント埋入
インプラントを埋め込んでその頭部を骨の外に出し、その上を歯肉で覆って縫合します。
Step3.治癒期間
インプラントと顎の骨が結合するまで治癒期間を設けます。
治療部位や骨の状態によって異なりますが、2~6ヵ月で結合します。
Step4.アバットメント装着
再び歯肉を切開し、インプラントの頭部にアバットメントを取り付けます。
Step5.人工歯装着
型をとって人工歯を作り、装着感や噛み合わせなどを確認しながら取り付けます。
1回法・2回法の特徴
1回法の特徴
・歯肉を切開する手術が1回だけなので、患者さまへの負担が少ない
・顎骨の高さと厚みがしっかりと残っている必要がある
・骨造成や骨移植を併用する場合、感染の可能性が高くなる
2回法の特徴
・歯肉を切開する手術を2回行なうため、患者さまへの負担が大きい
・ほとんどの症例で適用できる
・歯肉を縫合してから治癒期間を設けるため、感染の可能性が低い
インプラントQ&A
インプラント埋入治療は誰でも受けられますか?
残念ながら現時点では誰もが受けられる治療ではありません。年齢、健康状態、顎骨の状態、口腔内の状態などにより適してない方がいます。
年齢 | ・15歳以下の方 |
---|---|
健康状態 | ・手術に適さない体調の方 ・骨粗しょう症の方 ・糖尿病の方(コントロールできている方を除く) ・高血圧症、心臓病、肝臓病(軽度の方を除く) ・貧血などの血液疾患の方(軽度の方を除く) ・リウマチや皮膚病などのステロイドホルモンを使用している方 ・その他 |
顎骨の状態 | ・顎骨がやせている方:GBR(骨造成)により治療可能 ・顎骨の質が悪い方:手術法やインプラントメーカーを選択することにより治療可能 |
口腔内の状態 | ・口腔内のケアができていない方、ケアができない方 ・歯周病(歯槽膿漏症)の方:歯周病治癒後に治療可能 ・噛み合わせが悪い方 |
その他 | ・ヘビースモーカー |
インプラントの寿命はどのくらいですか?
多くの方は長期間使用できます。インプラントの寿命は健康状態、顎骨の状態、噛み合わせの状態、口腔内のケアの状態によって変わってきます。毎日きちんとケアして大切に使えば90%以上の方が10年以上使用できます。
適切なケアができていないと、どんなにほかの条件が良くても長期間使えません。
インプラントは、不具合が生じても痛みをあまり感じないものです。つまり、定期検診を受けてインプラントの状態に気を配る必要があります。
インプラントに不具合が起きたらどうするのですか?
残念ながらインプラントはすべての方が一生使用できるわけではありません。なかには除去しなければならないケースもあります。
インプラント除去は多くの場合「自分の歯」を抜くのと同じです。インプラントを除去された方のほとんどが再びインプラント埋入治療を希望されます。
インプラントを抜いた部位の骨が回復したら、再度インプラントを埋め込みます。ただし、骨吸収が進んだ場合には再度のインプラント埋入治療が不可能な場合があります。
インプラントに不具合が起きないようにケアを行ない、定期検診を受けましょう!
インプラント埋入治療はどこの歯科医院でも受けられますか?
インプラント埋入治療のできる医療機関は、全国で7軒に1軒の割合といわれています。そのなかでも治療レベルはさまざまであり、以下の3つの条件をすべて備えている医療機関でなければ治療の成功は望めません。
1. CT撮影とシミュレーションソフトによる徹底した術前診断の実施
2. 品質管理の徹底と、エビデンス(根拠)のあるメーカーのインプラント体の使用
3. 噛み合わせの治療から手術、メンテナンスまでのトータルな管理の実施
治療費の安さや治療期間の短さだけで病院を選ぶのは、リスクが大きいといえます。
治療費に保険は適用されますか?
インプラント埋入治療は健康保険適用外となり、すべて自費診療となります。
ただし、インプラント埋入治療以外の歯科診療につきましては、健康保険内診療も適用できます。
インプラントは危険ではないですか?
残念ながらインプラントはすべての方が一生使用できるわけではなく、なかには除去しなければならない場合もあります。その原因の多くは「インプラント周囲の骨の炎症」です。骨の化膿が広がらないうちにインプラントを除去すれば、危険ではありません。
インプラント埋入治療は大変ですか?
手術の必要があります。手術の体感は、歯を2~3本抜いた程度とされる患者さまが多く、埋まっている親知らずを抜くより楽なようです。
・手術は一時間程度です(埋め込むインプラントの数により異なります)
・歯科麻酔医による「静脈内鎮静法」によりストレスフリーな手術を行なえます
・インプラントと顎骨とが結合するまで2~6ヵ月かかるため、治療期間が長くなります
・人工歯の作製に1~2ヵ月かかり、4~8ヵ月の通院が必要です(通院は数回です。症例によって多少増えることがあります)
・機能性や審美性を重視するため自費(保険適用外)での診療となり、保険診療よりも高額になります。
・インプラントの埋入にともない、外科手術が必要となります。
・高血圧症、心臓疾患、喘息、糖尿病、骨粗鬆症、腎臓や肝臓の機能障害などがある方は、治療を受けられないことがあります。
・手術後、痛みや腫れが現れることがありますが、ほとんどの場合1週間ほどで治ります。
・手術後、歯肉・舌・唇・頬の感覚が一時的に麻痺することがあります。また、顎・鼻腔・上顎洞(鼻腔の両側の空洞)の炎症、疼痛、組織治癒の遅延、顔面部の内出血が現れることがあります。
・手術後、薬剤の服用により眠気、めまい、吐き気副作用が現れることがあります。
・手術後、喫煙や飲酒をすると治療の妨げとなるので、1週間は控えてください。
・インプラントの耐用年数は、口腔内の環境(骨・歯肉の状態、噛み合わせ、歯磨きの技術、メンテナンスの受診頻度、喫煙の有無など)により異なります。
・毎日の清掃が不十分だった場合、インプラント周囲炎(歯肉の腫れや骨吸収など)を引き起こすことがあります。
・インプラント埋入治療などの自費診療(保険適用外)で静脈内鎮静法を行なう場合は自費診療となり、保険診療よりも高額になります。保険診療となった場合も、高額になることがあります。これらの麻酔法を保険診療で行なうには治療内容など条件がありますので、詳細は歯科医師にご確認ください。
・静脈内鎮静法の実施により、薬剤による影響や全身疾患との関連から重篤な副作用を引き起こすことがあります。持病のある方は注意が必要なので、事前にお申し出ください。
・麻酔薬の影響ではなく緊張状態や麻酔注射時の疼痛により起こる脳貧血により、悪心、吐き気、手足の震え・痺れが起こることがあります。
・麻酔効果が切れるまで口の中の粘膜や唇の感覚が麻痺しているため、唇を噛んだりやけどなどをしないよう、食事は避けてください。
・アルコールにより血流が良くなり、出血・腫れ・痛みが増してしまうことがあるため、飲酒は避けてください。